シンギュラリティ信仰はいかにして生まれるか〜はじめに・序章

  • 2020年2月23日
  • 2020年9月28日
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シンギュラリティ信仰はいかにして生まれるか〜はじめに・序章

シンギュラリティ信仰はいかにして生まれるか〜はじめに・序章

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はじめに

 レイ・カーツワイルは、「シンギュラリティ」という概念を用いることによって、ある未来図を描いた。シンギュラリティとは、われわれが今日理解しているような人類のあり方が終わりを告げるほどの劇的変化が、技術の指数関数的進歩によってもたらされる地点のことを指す。その未来では、強いAIが登場したり、人間が非生物的な知能と融合して知性を獲得したり、脳をコンピュータにアップロードすることによって、人は死から免れるようになり、ヴァーチャル・リアリティの世界で姿を自由に変えられたたりするようになる。本稿の目的は、このようなシンギュラリティの思想がある種の宗教性を備えている点に注目し、その系譜をたどることによって、新たな宗教、信仰としてのシンギュラリティの特徴を示すことである。

 序章は、カーツワイルの描くシンギュラリティ自体の概要を紹介する。続く第1章から第3章では、シンギュラリティ思想に連なる三つの系譜を説明する。第1章では、「シンギュラリティ」の思想が、ジョン・フォン・ノイマンによって提唱され、ヴァーナー・ヴィンジを経てカーツワイルへと受け継がれ、そのアイディアが変化していったことを示す。次に、第2章では、シンギュラリティの思想がトランスヒューマニズムに位置づけられることを示す。トランスヒューマニズムとは、寿命の大幅な延長や認知拡張などを通じて、人間がその生物的制限を超越することを目指す思想および運動のことである。ここでは、ハンス・モラヴェックからカーツワイルまでの系譜をたどる。そして、第3章では、シンギュラリティの第三の系譜としてサイバネティクスの理論があることを示す。サイバネティクスとは、機械と生物における通信と制御の理論であり、20世紀にノーバート・ウィーナーによって提唱され、その後フォン・ノイマンらによって発展した。

 終章では、本稿の結論として、以上の三つの系譜を踏まえたうえで、シンギュラリティがある種の宗教性を帯びるようになり、その信仰を拡大させ、現代社会における新たな宗教、信仰となっていったことを示す。

序章 カーツワイルの描くシンギュラリティ像

 シンギュラリティとは何か。シンギュラリティは日本語で「技術的特異点」あるいは「特異点」と訳される。特異点とは何かについて、マレー・シャナハン(Murray Shanahan)は次のように述べている。

 物理学において特異点というのは、ブラックホールの中心もしくはビッグバンの瞬間のような空間か時間の一点であり、そこでは数学の常識とわれわれの理解力が共に崩れ落ちる。そこからの類推で、人類史においての特異点とは、われわれが今日理解しているような人類のあり方が終わりを告げるほどの劇的変化が、技術の指数関数的進歩によってもたらされることを指す。(シャナハン 2016〔2015〕:3)

 このように、人類史におけるシンギュラリティとは、物理学における「特異点」という概念の類推であり、「われわれが今日理解しているような人類のあり方が終わりを告げるほどの劇的変化が、技術の指数関数的進歩によってもたらされる」(シャナハン 2016〔2015〕:3)地点のことを指す。

 しかしながら、シャナハンのシンギュラリティに関する定義はあいまいであり、これではシンギュラリティが具体的にどのようなものであるか見えてこない。そこで、シンギュラリティとは何か具体的に知りたいのなら、レイ・カーツワイル(Raymond Kurzweil)の著書『ポスト・ヒューマン誕生――コンピュータが人類の知性を超えるとき』1)を薦めよう。カーツワイルは、アメリカの発明家兼フューチャリストであり、現在は米Google社で機械学習と自然言語処理の技術責任者を務める等、テクノロジーに精通した人物だ。彼は、その著書の中で、シンギュラリティに至る過程やシンギュラリティの訪れる時期、シンギュラリティ後の未来について詳細に述べている。本章の目的は、このようなカーツワイルの描くシンギュラリティ像を明らかにすることである。

 第1節では、カーツワイルの考えるシンギュラリティの概念について紹介する。ここでは、カーツワイルの描くシンギュラリティ像について大まかに理解してもらうことを目指す。第2節では、カーツワイルの描くシンギュラリティに至る過程について、収穫加速の法則とGNR革命という二つの観点から紹介する。ここでは、収穫加速の法則により、テクノロジーの成長率が急速に上昇し、ほとんど垂直の線に達する地点がシンギュラリティと呼ばれることや、G(遺伝学)革命とN(ナノテクノロジー)革命、R(ロボット工学)革命が共に作用して起こる結果として、シンギュラリティが訪れることを示す。第3節では、カーツワイルの描くシンギュラリティの訪れる時期について紹介する。ここでは、非生物的な知能であるコンピューティングの能力が人間の全ての知能よりも約一〇億倍強力になることでシンギュラリティが訪れ、それが、二〇四五年ごろであることを示す。第4節では、カーツワイルの描くシンギュラリティ後の未来の主な出来事として、「強いAI(人工知能)の登場」、「人体の拡張」、「非生物的な知能との融合」、「人間の脳のアップロード」、「完全没入型のヴァーチャル・リアリティの実現」という五つの観点から紹介する。第5節では、以上のまとめとして、カーツワイルの描くシンギュラリティ像に見られるアイディアを挙げる。第6節では、本稿の目的と先行研究における位置づけを示す。

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